人のまことの心 [雑感]
人は、その死に臨んで、初めてまことの心がわかる。死に際して残した最後の言葉で、その人の真価がわかる。三国志に登場する3つの国の3人の英主は、その対比が見事に浮き彫りになっている。
晩節を汚したのは呉の孫権。末子に惑溺して皇太子の選定を誤り、呉国衰亡の端緒を開いた。
蜀の劉備は、諸葛亮に後事の全てを託して何の迷いも見せず、鮮やかな死に際であった。
しかし、その死に際してさえひときわ燦然と輝くのは魏の武帝、曹操。曹操は死に臨んでこう遺言した。
「天下は依然として安定をみない以上、まだ古式に従(って壮麗な葬儀を営む)わけにはいかない。埋葬が終わった後は、皆、喪に服してはならない。兵を統率して守備地に駐屯している者は、部署を離れてはならない。官吏はそれぞれ自己の職につとめよ。遺体を包むのには平服を用い、金銀珍宝を(墓中に)納めてはならぬ。」
何よりも国の行く末を思い、天下の安寧を目指した男の言葉である。「演義」では悪役の頂点に立つ曹操だが、その真の姿はかくの如しである。劉備という英傑さえ同時代に生きていなければ、彼はたやすく天下を手中に納めたかもしれない。
武帝紀を読み返して、あらためてそう思った。
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