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虚空蔵山楯(山形県南陽市) [古城めぐり(山形)]

IMG_3127.JPG←南端で直角に曲がる3本目の掘切
 虚空蔵山楯は、星見ヶ城とも呼ばれ、歴史不詳の城である。大洞山楯と同様、置賜盆地から上山を経て山形に通じる街道を眼下に収め、北方に築かれた伊達氏屈指の山城、岩部山城から西南西にわずか2.1kmしか離れておらず、類稀な多重堀切群を有している技巧性から、伊達政宗が最上義光の侵攻に備えて街道沿いに築いた城砦群の一つだったのではないかと、個人的に推測している。

 虚空蔵山楯は、川樋集落の西方の標高450m、比高160m程の小ピーク上に築かれた城である。このピークはちょっと変わった位置にあり、2つの山に挟まれた中間の谷戸の先に突出する形で、小高く盛り上がっている。城に登るとわかるが、城の背後は前述の谷戸が緩やかな傾斜地となって広がっており、この背後からの敵の接近をいかに防ぐかに防御の重点が置かれている。城のある虚空蔵山には、地元の人が「虚空蔵さん」と呼ぶ大きな祠が祀られており、かつては東麓から祠までの道が整備されていたが、現在は高齢化で登る人もいなくなって薮に埋もれつつあり、辛うじて道が残っている程度である。道を登って行くと、麓近くの緩斜面には階段状に多くの平場が道の両側に広がっている。ここは現在は耕作放棄地であるが、根小屋と呼ばれていたことから、居館地区であったらしい。ここには湧水があり、現在でも滔々と水が流れている。これらを見ながら登って行くと、虎口のような地形があり、そこから先は七曲りと呼ばれるつづら折れの山道となる。山道を登り切ると城域最下段の段曲輪に着くが、そこに虚空蔵さんの祠が祀られている。そこから上に5~6段程の段曲輪群が続く。これらの段曲輪群はそのまま側方に腰曲輪となって続いており、そこがまた上段へと登る城道を兼ねている。段曲輪群の最上段は、主郭前面に掘切を介して築かれた小さな二ノ郭で、物見台的な曲輪となっている。主郭との間の掘切は虎口を兼ねており、下段の腰曲輪から城道が続いている。主郭は前面・左面・背面を低土塁で防御した曲輪で、内部は3段程の段差に分かれた縦長のひしゃげた五角形をしている。背面の土塁は、そのまま南側の腰曲輪背面まで続いている。この城の白眉は、主郭背後の尾根に穿たれた6重掘切で、単純に6本の掘切で断ち切っただけではない、複雑な構造をしている。例えば3本目の掘切は、南側でL字状に折れ曲がって2本目の掘切にぶつかる手前で止まっている。また4本目は尾根上では円弧状に穿たれているが、南面に来たところで、折れ曲がってまっすぐ竪堀となって落ちている。5本目は円弧状に穿たれた横堀で、南側が4本目にぶつかる手前で止まっており、土橋となって削り残されている。この土橋の下には小郭があり、下方に伸びる竪堀を睥睨している。6本目は、城背後の谷戸裏の西側丘陵との間に穿たれており、そのまま南東に竪堀となって落ちている。ここには4本目の掘切が合流し、合流点に小さな円丘があり、その下の方では真ん中に中洲状に土塁がある二重竪堀となっている部分もある。この様に堀切が合流分岐し、更に堀の屈曲がある。竪堀はいずれも長く、要所には横矢掛かりの櫓台が築かれるなど、これらの複雑な構造は背後の緩い谷戸からの接近阻止を主眼とするものであろう。この他、主郭の北側と南側に腰曲輪が2段づつ築かれ、北側下方に畝状竪堀らしき地形も見られる。

 虚空蔵山楯は、比較的小規模な城砦であるが、それには不釣り合いな程、複雑な6重掘切が穿たれており、岩部山城と共に重視された城だったと思われる。岩部山城を月見ヶ城とも呼び、虚空蔵山楯を星見ヶ城とも呼ぶことからも、2つの城が相互に関連した城であったことを強く類推させる。尚、城への登道を訊いた山麓のおばあさんから、高齢でお参りできなくなった虚空蔵さんの祠に代わりにお参りして欲しいと頼まれ、無事に果たすことができた。ちょっとだけ人助けができた気がして、爽やかな気分になった城であった。
主郭背後の堀切→IMG_3081.JPG
IMG_3109.JPG←円弧状の5本目の掘切
虎口を兼ねた主郭前面の掘切→IMG_3208.JPG
IMG_3229.JPG←段曲輪にある虚空蔵さんの祠
 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆☆
 場所:http://maps.gsi.go.jp/?ll=38.089513,140.181438&z=16&base=std&vs=c1j0l0u0

※東北地方では、堀切や畝状竪堀などで防御された完全な山城も「館」と呼ばれますが、関東その他の地方で所謂「館」と称される平地の居館と趣が異なるため、両者を区別する都合上、当ブログでは山城については「楯」の呼称を採用しています。
タグ:中世山城
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