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手子丸城(群馬県東吾妻町) [古城めぐり(群馬)]

DSCN2212.JPG←主城部の腰曲輪群
(2021年2月訪城)
 手子丸城は、大戸城とも呼ばれ、元は大戸浦野氏の城であったものを小田原北条氏が改修したと推測される大規模山城である。浦野氏は滋野氏の一族で鎌倉中期に信濃からこの地へ移り、浦戸氏あるいは大戸氏を称した。手子丸城の築城時期は不明であるが、1513年に箕輪城主長野憲業が榛名山神社に捧げた祈願文に「大戸要害」とあり、この時期に手子丸城があったことが確認できる。1561年、浦野中務少輔重成は武田信玄に従い、信玄は箕輪長野氏の一族羽田彦太郎を逐って、その跡を重成に与えた。1563年、武田氏に抗して岩櫃城主斎藤憲広は手子丸城に押し寄せたが、重成は武田の加勢と共にこれを撃退し、翌年には岩櫃城は落城して斎藤氏は没落した。以後、浦野氏は吾妻を領有した武田氏家臣の真田氏に属した。1582年、武田勝頼・織田信長が相次いで滅亡すると、元武田領国の支配権を狙って北条氏直の侵攻が始まった。神流川合戦で織田氏部将の滝川一益を駆逐した北条氏は上野全域の支配を目指し、吾妻を領有して北条氏に抗していた真田昌幸の岩櫃城を攻撃するため、その前哨戦が三ノ倉で始まった。真田方であった手子丸城主大戸真楽斎・権田城主大戸但馬守兄弟は三ノ倉で北条勢を迎撃したが、多勢に無勢で手子丸城まで退き、そこで激戦の末討死した。以後、手子丸城は北条氏の支配するところとなり、吾妻作戦の前線拠点となった。一説には1586年の一時期、真田信幸が500騎を率いて奪還したとも言われるが、詳細は不明。その後も北条氏の前線拠点であり、1587年頃には城は改修強化され、上野方面を管轄した鉢形城主北条氏邦は重臣斎藤摂津守定盛を城代として置き、周辺地域支配を管轄させた。1589年、北条勢は手子丸城に集結して岩櫃城を衝く気配を見せたが、豊臣秀吉の北条氏討伐(小田原の役)が決定されたため、北条勢は撤退した。

 手子丸城は、温川と見城川の合流点東側にそびえる、標高649m、比高170m程の山上に築かれている。北麓まで伸びる支尾根が大手で、登道が付いている。東西500m以上に及ぶ主尾根に曲輪群を配置し、それぞれの峰から北に伸びる支尾根に更に曲輪群と堀切を配置した広大な城である。東西に伸びる主尾根中央の堀切を境に、西が主城部、東が外郭部と分かれている。
 主城部は、山頂に主郭とその東に副郭を置き、そこから北斜面に幾重にも腰曲輪群を築いている。この腰曲輪群は、主郭北側のものと副郭北側のものに中央の尾根で区画されている。主郭北側のものは曲輪がより大きく、下方で2つの支尾根に分かれて段曲輪が連ねられている。それぞれ先端近くに堀切が穿たれている。主城部の東から長く北に伸びる支尾根が大手で、大小3本の堀切と物見台状の曲輪や腰曲輪が配置されている。大手尾根をずーっと降った先にはやや広い平場が広がり、櫓台の様な土壇も見られ、大手の登り口を監視する出丸だった様である。
 一方、外郭部は、合計5つの峰があり、それぞれ頂部に曲輪が置かれ、周囲に腰曲輪群や堀切、竪堀が構築されている。間にある土橋を境に、西を中城、東を東出城とここでは便宜上呼称する。中城は、鉄塔のある曲輪から堀切を挟んで西に物見台の峰があり、その北尾根には『日本城郭大系』や『境目の山城と館 上野編』の縄張図にない堀切が2本穿たれている。東出城では東端に近い部分にも主尾根の北斜面に3段の腰曲輪群が連ねられている。東端の物見台の東側に城域東端の二重堀切が穿たれ、物見台の裏には横堀が築かれ、その西端は直角に曲がって竪堀となって落ちている。この辺りの防御構造は長野原城によく似ている。
 手子丸城は、覚悟はしていたが予想に違わぬ広大な城で、多段式腰曲輪群が多数かつ広い。一つ一つの曲輪はそれほど大きくはないが、全体ではかなりの数となり、一体どれほどの兵を置いていたのかと思う。城の形態としては、主城部は長野原城に、長い主尾根を主軸に多数の支尾根に曲輪群を配置した構造は松井田城によく似ている。また横堀から落ちる竪堀の雰囲気は岩櫃城のものに似ている印象もある。真田氏と北条氏双方による改修をうかがわせる城である。
大手尾根の堀切→DSCN2004.JPG
DSCN2225.JPG←主城部と外郭部を区画する堀切

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/#16/36.514853/138.780938/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1


図説 戦国北条氏と合戦

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