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ハイティンク/ロンドン交響楽団来日コンサート2013 [クラシック音楽]

先週7日に、サントリーホールでピアニストのピリスをソリストに迎えてのコンサートがあった。曲目は、モーツァルトの協奏曲から演目変更となった、私の大好きなベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。そして、期待のブルックナーの交響曲第9番である。

ピアノ協奏曲第2番は、ベートーヴェン初期の作品で、それだけに軽妙で快活な、後のベートーヴェンとはひと味違う作風の曲で、それがまたたまらない魅力となっている。
ピリスは小柄な体格の女性のため、往年のバックハウスなどのような力強いタッチとは異なり、静かなインティメートな演奏である。
その点、やや物足りなさを感じる部分もあったが、白眉は第2楽章の終盤、ピアノソロの部分で、まるで時間が止まっているかと感じるぐらい、テンポを落として静かに弾かれる旋律は、深く心に染みこんでくる素晴らしい表現で、早くもベートーヴェンの中に生まれているメランコリーを強く感じさせるものだった。
思わず涙が出そうになるほど、心の中が震えた。
最も好きな第3楽章も、ベートーヴェンの明るい諧謔的な精神を発揮した鮮やかなキータッチで、この作品の魅力を十分に引き出した名演だったと思う。

さて休憩を挟んで、いよいよ大曲、ブルックナーの9番である。
ハイティンクのブルックナーと言われれば、期待しないはずがない。
最初の、震える弦の旋律に始まる交響曲は、期待に違わぬ、いや、それ以上の素晴らしい演奏で、第1楽章の最初から第3楽章の最後まで、これ以上はない緊張感がみなぎった演奏だった。
聞いているこちらも背中に汗をかいていたほどの、凄まじい緊張感!
ロンドン響の演奏は、たまにアンサンブルがわずかに不揃いになることもあるが、全体的には精緻で、何よりハイティンクが80を越える年齢にもかかわらず、オケを完全に掌握して、ブルックナー特有の全休符や最弱音など、要所を完璧に押さえた演奏であった。
そして何より、余計な味付けをせず、謙虚に音楽に向き合う指揮が、音楽の自然な流れを最も必要とするこの曲には、完璧に合っていた。
かつて、「波が押しては引くような」とある音楽評論家が書いた通りのこの曲には、この自然な流れが最も大事だと私は思っているが、それが理想的な形で演奏されていた。
本当に心の底から、「これぞブルックナー!」と言いたいほど。
ハイティンクは、いまや当代最高のブルックナー指揮者だろう。
演奏を終えてしばし佇んだ後、ホッとしたようにカランと指揮棒をスタンドに置いたチャーミングな仕草も、聴いているこちらの緊張感をほぐしてくれた。

これほど感動したコンサートは、これまでにない。
帰りの車の中で、コンサートの余韻を消すまいと、オーディオをつけられなかった。
ハイティンクには、まだまだ元気で長生きして貰いたいと、心の底から思った。
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