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小幡城(茨城県茨城町) [古城めぐり(茨城)]

DSC09731.JPG←幾重にも横矢が掛かる堀
 小幡城は、水田と丘陵状の地形がモザイクのように絡み合った平野の中に築かれた丘城である。大掾詮幹の三男義幹が室町時代(1420年ごろ)に築いたという説と、小田知重の三男光重が鎌倉時代(1220年ごろ)に築いたという二説がある。いずれにしても現在に残る遺構は戦国期のもので、水戸城を本拠にした江戸氏が府中城の大掾氏を攻める拠点として、1570年代に整備したものといわれている。1590年12月に豊臣秀吉の権力を背景にした佐竹義宣は水戸城を奪って江戸氏を没落させ、更に府中城の大掾氏を滅亡させた。このとき小幡城も落城した。その後、城は佐竹氏の管理下に入ったが、関ヶ原の戦いの後、佐竹氏が秋田に転封になると廃城となった。

 小幡城には水戸城を訪れたついでに寄ったのだが、「ついで」などとは畏れ多い圧巻の城だった。傍目に見ると、それほど要害性が高いとも思えない比高10m程度の丘を利用して作られた平凡な城にしか見えないが、内部に一歩足を踏み込むと、恐るべき世界が待ち受けている。それは、巨大な堀を縦横に張り巡らせた迷路のような城なのである。堀はいずれも深さ10m以上、幅15m以上もあるような巨大なもので、大きく6つの曲輪に区画している(但し、平地部に作られた第7郭を除く)。堀底が通路になっているが、これらの堀は一つとして真っ直ぐなものはなく、至るところで屈曲して巧妙に横矢が掛かり、なおかつ何度も方向を変えるため、ここに迷い込んだ者は現在地と方向感覚をあっという間に見失うのである。縄張図を確認しながら歩いていても、現在地がわからなくなりそうなほどだ。おそらく堀の総延長は1km近くに及ぶと思われる。あちこちに本丸への案内標識があり、しかも標識以外の場所に迷い込まないよう注意書きまであるが、確かに学校帰りの子供が遊びで入り込んだら、大変なことになるだろう。

 堀の配置は巧妙に工夫されており、西の大手から侵入した敵兵を本丸に近づけず、自然と城外へ追いやるよう配置されている。またこれらの堀には、随所に堀底を監視する櫓台が築かれており、入り込んだものを監視し威圧するようになっている。第5郭に続く細長い帯曲輪状の土塁の上には中央に窪みを設け、ここに兵を隠すことにより、土塁両側の堀に侵入した敵兵を少数の兵で効果的に迎撃できる工夫が施されている。解説板では「変形武者走り」と称している構造である。この城の縄張りは、近辺の他の城では類を見ない極めて特殊なものであるようだ。

 それにしても、これほどの堀、これほどの城を作ろうとする動機は、どこから来るものなのか?平和に慣れた現代人には理解しがたい。ここまで庶民を酷使しないと生き延びれない戦国の世の厳しさをひしひしと感じざるを得ない。戦国期の中小大名だから、その動員できる人員も高が知れているはずなのだ。その一方でこの城が、「埋もれた古城」や「余湖君のお城のページ」などの名だたる名サイトで、「驚愕の中世城郭」「茨城で最もすばらしい城郭」と絶賛されているのもうなずける。とても人間業とは思えない驚異的な遺構である。

 なお、西に広がる第7郭は東関東道で潰される事が確定し、目下建設工事中である。残念なことではあるが、城の中枢部の破壊が免れただけでも良かった。数年前には建設前の緊急発掘でこの曲輪にも堀が発見されたというが、その時この城のことを知らなかったのが残念である。
堀底を睥睨する櫓台(中央奥)→DSC09750.JPG

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/?ll=36.264968,140.405091&z=16&base=std&vs=c1j0l0u0


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ノリパ

日本名城百選(小学館)にも、全国屈指の空堀が巡る堅城、と紹介
されているんですよ。すごいところみたいですね。
仕事でこの辺りもウロウロしたはずなのに、まったく知らなかったん
ですよ。ますます見に行かなきゃ、と思います。
by ノリパ (2009-03-03 23:44) 

アテンザ23Z

>ノリパさん

名城百選に中世城郭が載っているとは知りませんでした。
てっきり近世城郭ばかりかと・・・。
近年は中世城郭も、その価値が見直されてきているんでしょうか。
大河ドラマでも、山城の姿をCGで再現したりするようになっていますね。
by アテンザ23Z (2009-03-05 02:25) 

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