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丸子城(静岡県静岡市駿河区) [古城めぐり(静岡)]

DSC01455.JPG←大鑪曲輪の三日月堀
 丸子城は、甲斐武田氏がその末期に、存亡をかけて大改修したハイテク城郭である。元々は、応永年間(1394~1428年)の頃に今川氏の家臣斎藤加賀守安元の居城であったとされる。その後、今川氏親は駿河府中の西を押さえる要衝として、丸子城を斎藤氏から接収し拡張した。1568年になると、武田信玄は甲相駿三国同盟を破棄して駿河に侵攻し、興津河原で今川勢を撃破し、駿河府中を焼き討ちした。駿府に陣を敷いた信玄は、西駿河の今川方勢力に対応するため、重臣山県昌景を丸子城に駐屯させて守りを固めた。1570年に駿河全域を支配下に置いた信玄は、室賀兵部大輔(後の屋代勝永)・関甚五兵衛を丸子城に在番させ、勝頼の代に移ってからの1579年頃には徳川家康による西駿河侵攻が激しくなり、この頃に丸子城は大改修された。1581年、遠江の要衝高天神城の落城を前に、武田勢は徳川勢に丸子城を明け渡して退去した。徳川氏は城代の松平備後守を駐留させたが、1590年に家康が関東に移封となると廃城となったとされる。(静岡古城研究会著『静岡県の城跡』では、1582年廃城説を採っている。)

 丸子城は、東海道の宿場町、丸子宿西側の標高140m、比高120mの山上に築かれた山城である。極めて技巧的な、精緻を極めた縄張りの城で、武田流のハイテク築城術が遺憾なく投入されている。大手口とされる匠宿方面から整備された登山道を登ると、兵の駐屯地とされる広い平坦地が現れ、ここから先に行くと本格的な城域に入る。まず鈎状の横堀と腰曲輪で防御された大手曲輪が構えられている。大手の曲輪をこの様に横堀とその周りの腰曲輪で防御した例は、犬居城などにも見られる駿河、遠江方面の武田系城郭でよく見られる構造である。この先、大手ニノ曲輪・北曲輪・三ノ曲輪・ニノ曲輪・本曲輪と、主要な曲輪は尾根に沿って大きく「く」の字に曲がって配置されている。これらの曲輪は、堀切・竪堀・土塁で動線を巧みに屈曲、遮断させ、枡形虎口を2ヶ所に配置して備えを固めている。特にニノ曲輪と本曲輪の間は深い堀切となっており、更にニノ曲輪側に張り出した橋台があり、対岸の本曲輪に大手枡形があることから、木橋が架かっていたと推測されている。本曲輪の西側には平虎口の外に張り出した小郭があり、狼煙場と言われている様だ。この下に合計4段の段曲輪が築かれているが、城道の要所を竪堀で動線拘束し、最下段の曲輪へは土橋状になった土塁で連絡され、その土橋横も竪堀で動線拘束して敵の侵入を阻止している。しかし何よりこの城で圧巻なのは、徳川軍の来攻方向である西側への備えの厳重さである。北曲輪から本曲輪まで長大な横堀が穿たれ、その外側に腰曲輪を廻らしている。この、曲輪周囲の横堀と外周の腰曲輪は、北条氏の滝山城滝の城山中城小机城などに見られる構造と酷似する一方、信濃の武田系城郭では見られない構造である。武田の領国内では、おそらく信玄治世の末期に併合された西上州と駿遠地域でしか見られないもので、滝山城戦を始めとする北条氏との抗争から会得した築城法ではないかと思う。この横堀に沿って、三ノ曲輪西側に半月型の独立堡塁がそびえ、下方に対して睨みを効かせている。また本曲輪西側にも、腰曲輪を間に置いた二重の横堀の外側に大鑪曲輪と呼ばれる独立堡塁に近い形の丸馬出がそびえ、その外周に三日月堀が穿たれている。更にその側方に100mに及ぶ長大な竪堀が穿たれている。この付近の構造は厳重さを極め、側方を横堀・竪堀で動線拘束した狭い土橋でのみ連結されている。この2ヶ所の独立堡塁は、これほど完全に捨曲輪としての意図を明確にした構造を私は見たことがない。ここの守備兵は、周囲を敵に囲まれた中、絶対死守を命じられた完全な捨て駒で、あまりの冷酷な縄張りに戦慄さえ覚える。この他、腰曲輪に食い違いに竪堀を穿ってクランク状土橋とするなど、技巧的構造には枚挙に暇がない。とにかくこれでもかというぐらい素晴らしい縄張りで、静岡県内で武田の城といえば、諏訪原城とこの丸子城が双璧であろう。
横堀とクランク状土橋→DSC01327.JPG
DSC01313.JPG←半月型の独立堡塁
 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆☆☆
 場所:http://maps.gsi.go.jp/#16/34.951205/138.328338/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0l0u0t0z0r0f0
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ノリパ

おっ、ファイブスターですね。武田のハイテク築城ですか、スゴイッス。
by ノリパ (2013-05-26 10:43) 

アテンザ23Z

>ノリパさん
この城は、すごいとは聞いていましたが、
期待に違わぬ素晴らしい城ですよ。
by アテンザ23Z (2013-05-26 14:19) 

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