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松尾城(長野県飯田市) [古城めぐり(長野)]

DSCN9530.JPG←二ノ郭の空堀
 松尾城は、信濃守護小笠原氏の一流、松尾小笠原氏の居城である。松尾城がある伊賀良庄は、鎌倉時代には北条得宗領であったが、1333年の元弘の乱による執権北条氏滅亡後は、信濃守護に補任された小笠原貞宗の所領となったらしい。松尾城の創築時期は不明であるが、一説には南北朝時代には小笠原貞宗やその子政長が居城としていたとも言われる。即ち、戦国時代に府中の林城を本拠とした信濃守護家の小笠原氏は、南北朝期には松尾城を本拠としていた可能性がある。しかし文献上、松尾城が現れるのは室町時代中期である。小笠原氏は一時期信濃守護職から外されていたが、政康の時に復権を遂げ、政康の死後はは深志(府中)小笠原氏・松尾小笠原氏・鈴岡小笠原氏が分立し、惣領職をめぐって抗争を繰り広げた。その経緯は鈴岡城の項に記載する。1493年、松尾の小笠原家長の嫡男定基は、守護の鈴岡小笠原政秀・長貞父子を松尾城に誘い出して殺害し、鈴岡小笠原氏は滅亡した。1534年、深志の府中小笠原長棟は松尾城の定基を攻め、定基父子は降伏して松尾城を明渡した。長棟は松尾城を破却し、定基の子貞忠とその子信貴は甲斐へ逃れた。長棟は分裂していた信濃の小笠原氏を統一し、その子信定が鈴岡城に入り、伊賀良庄を治めた。1554年、甲斐の武田信玄が下伊那に侵攻すると、下伊那の多くの国人衆は武田氏に降ったが、鈴岡城の信定と神之峰城主知久頼元は頑強に抵抗した。しかし先に甲斐に逃れていた松尾小笠原家の信貴・信嶺父子は、武田氏の先鋒となって鈴岡城を攻撃し、落城させた。信貴によって松尾小笠原氏は再興され、武田氏の重臣山県昌景の率いる伊那先方衆として100騎を持つ松尾城主となった。1582年2月、織田軍が武田征伐を開始すると、下伊那の有力国衆であった松尾城主小笠原信嶺は早々に織田方に降り、伊那の武田領国崩壊の口火を切った。武田氏滅亡後、織田信長から本領を安堵されたが、信長は密かに信嶺を誅殺しようとしていたらしい。しかし同年6月、本能寺で信長が横死し、武田遺領争奪戦「天正壬午の乱」が生起すると、徳川家康に服属した。1590年、豊臣秀吉が小田原北条氏を滅ぼすと、徳川家康が関東に移封となり、信濃の徳川方諸将も関東に移された。信嶺は武蔵本庄城主となり、松尾城は廃城となった。

 松尾城は、天竜川西方の比高40m程の河岸段丘先端部に築かれている。毛賀沢川を挟んで鈴岡城と対峙する位置にある。県の史跡に指定されており、主郭周囲は公園化されている。かなり広大な城で、公園化されているのは城跡のごく一部に過ぎない。城のある段丘は大まかに言って上下2段に分かれており、主郭は上段段丘の先端部に構築されている。東西に帯曲輪を伴い、東の切岸には河原石を積んだ石積みが残っている。主郭の西側下方には「本城」の名が残る曲輪群があり、堀切・舌状曲輪群が築かれていて、一部は民家の敷地となっている。主郭の西から北にかけて、L字型に空堀が穿たれている。この空堀は北側では堀底が幅広となり、曲輪として機能したしたらしい。空堀の西側には二ノ郭が築かれている。二ノ郭は南側が高く、北に向かって下り勾配となり、郭内は何段かに分かれていたらしいが、公園化による改変があって、往時の形状をどこまで残しているのかは不明である。二ノ郭の南側にも腰曲輪群が築かれているが、竹薮となっている。二ノ郭の西側に空堀が穿たれ、その外側に三ノ郭が広がっている。三ノ郭も南が高台となり、御霊屋・龍門寺屋敷などの地名が残るが、全体が民有地となっていてほとんど内部踏査できない。三ノ郭の北には空堀が穿たれ、外郭が広がっている。北古城・南古城などの地名が残るが、全て民家となっていてここも内部踏査はできない。外郭の北には沢筋が天然の堀となって城域を区画している。一方、主郭の東には、堀切を挟んで「長ごろう山」という小山があり、小郭群が築かれ、堀切・竪堀も構築されている。長ごろう山の東は下段の段丘が広がり、サカヤシキという広大な平場が広がっている。内部は畑や耕作放棄地となっているが、外周に横堀が穿たれている。縄張図では何本も竪堀があるとされるが、形状は明瞭ではなく、どちらかと言うと竪土塁の形状の方が明瞭である。以上が松尾城の遺構で、公園化による改変が多かったり、踏査できない部分があったりして、やや消化不良気味の城である。
主郭切岸の石積み→DSCN9735.JPG
DSCN9689.JPG←長ごろう山の堀切
サカヤシキの竪堀→DSCN9665.JPG

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/#16/35.486961/137.828271/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1


新装改訂版 信州の城と古戦場

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