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干沢城(長野県茅野市) [古城めぐり(長野)]

DSCN5563.JPG←二ノ郭西斜面の大竪堀
 干沢城は、樋沢城とも書かれ、諏訪氏の一族上社大祝家の詰城である。大祝家は、諏訪大社上社前宮の神殿(ごうとの)を居館としていた。干沢城の築城年代は不明であるが、諏訪氏の系譜は古く、16代諏訪為仲が源頼義・義家に従って前九年の役・後三年の役に参陣しており、その後も一族が保元の乱で源義朝の軍に参陣するなど、関東武士団の形成と歩みを同じくして諏訪氏も武士化した。その過程で居館の防衛や砦の構築を進めていたことが伺え、干沢城も早い時期から何らかの砦が築かれたと推測される。文献上、初めて干沢城が現れるのは、1483年である。古代以来諏訪氏では、幼少時に大祝として神に仕え、長じてからは惣領として武士団・政権を司る祭政一致の形態が取られていた。しかし中世の動乱の中で、神事の権威である大祝と、諏訪一門の棟梁である惣領という二重構造を強めた。1456年、惣領の安芸守信満とその弟で大祝の伊予守頼満との間で争いが起き、惣領信満は上原城に拠って宮川以東を領すると共に一門を率い、大祝頼満は前宮に残って宮川以西を領すると共に祭祀を司った。これ以後、惣領家と大祝家とは分裂状態となり、諏訪氏は祭政分離となった。頼満の子大祝継満は、1483年正月8日に信満の子で惣領の政満とその一族を前宮の神殿に招いて謀殺し、惣領家の所領を奪って上社の祭政両権を握ろうとした。その後、同月15日継満は一族と共に干沢城に立て籠ったが、諏訪氏の一家眷属は継満の暴挙に激怒して同月19日夜、干沢城を攻撃し、継満は父頼満をはじめ一族に多数の犠牲者を出し、雪の中を妻の実家の高遠継宗を頼って伊那高遠に落ち延びた。翌84年5月3日、小笠原政貞ら伊那諸豪の援助を得た継満は、杖突峠を越えて諏訪に侵入し、片山古城(武居城)を取り立てて干沢城と対峙したが、惣領勢に攻められて退去した。同年12月、先に継満に殺害された政満の2男頼満が上社大祝職に就き、以後、祭政一致に戻った諏訪惣領家が諏訪郡を支配した。一方、継満は1486年、大熊に新城(大熊荒城)を築き、諏訪氏と継満一派との戦いは繰り返されたが、間もなく継満の死により頼満の家系は断絶した。1542年には、武田信玄は諏訪氏の家督を狙う高遠頼継と連携して諏訪に侵攻し、干沢城も攻撃を受けた。その後惣領家の諏訪頼重を自刃させた武田氏は諏訪を支配下に置いた。その後の干沢城の存廃は不明である。

 干沢城は、諏訪大社上社前宮の東にある北に向かって突き出た比高80m程の丘陵上に築かれている。北西麓から登道が整備され、城内も薮払いされて遺構がよく確認できる。南北に曲輪を連ねた連郭式の縄張りで、北から順に四ノ郭・三ノ郭・二ノ郭・主郭が配置されている。四ノ郭・三ノ郭は、切岸だけで区画された、いずれも馬蹄形の曲輪で、外周には幾重にも腰曲輪群が配置されている。三ノ郭の背後には堀切が穿たれ、二ノ郭が構えられている。二ノ郭は3段の平場に分かれ、郭内に鉄塔が建っている。二ノ郭と主郭の間は東半分を片堀切で穿っている。この堀切は東斜面に長い竪堀となって落ちている。二ノ郭も東西の斜面に腰曲輪群を築いており、西側下方では大きな竪堀が腰曲輪群を貫通して北に向かって落ちている。この竪堀は形状からすると、登城路だったと思われる。主郭も3段の平場に分かれ、外周に腰曲輪群を築いている。南東では堀切の先に馬蹄形の出曲輪が配置され、その下方の腰曲輪の横から竪堀が落ちている。また南の腰曲輪の一部では、わずかに土塁が築かれている。主郭の南西は大きな鞍部となっているが、後世の耕地化で改変されているらしい。その南に配水池の大きなタンクがあり、その南に干沢城の背後を防衛する長林砦が築かれている。
 長林砦は、南北2つの曲輪群で構成されている。北郭群は3段の小平場で構成され、背後に堀切がある。さらにその南に登った先にあるのが南郭群で、ここも3つの平場があり、2つ目の後ろに浅い堀切がある。しかし長林砦の堀切は、いずれもほとんど自然地形である。
 以上が、干沢城の遺構で、諏訪氏の山城の中ではかなり規模が大きい部類に入る。実戦が行われたことが文献に残る数少ない城の一つでもあり、遺構も見やすく、必見の城である。
四ノ郭から見た三ノ郭→DSCN5417.JPG
DSCN5437.JPG←三ノ郭~二ノ郭間の堀切
片堀切から落ちる竪堀→DSCN5478.JPG

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/#16/35.988815/138.136768/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1


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