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上野南本城(長野県飯田市) [古城めぐり(長野)]

DSCN5916.JPG←南西曲輪群の長い竪堀
 上野南本城は、座光寺南本城とも呼ばれ、歴史不詳の城である。この地の国人、座光寺氏が築いた城と推測されている。伝承では、鎌倉前期に隣接する上野北本城が築かれ、応永年間(1394~1428年)に上野南本城が築かれたが、1582年の織田信長による武田征伐で落城したと言われている。座光寺氏は、諏訪大社大祝家の一族神(みわ)氏の出自と考えられ、戦国前期に神之峰城を本拠とする知久氏が勢力を拡大すると、座光寺氏も知久氏に服属した。その後、武田信玄が伊那に侵攻すると、座光寺氏も武田氏に従ったと言う。1573年には、武田氏重臣の秋山虎繁(信友)と共に、美濃岩村城に在城した。1575年11月、織田勢に攻められ降伏した座光寺氏らは長良川で磔にされた。1582年、織田信長によって武田氏が滅ぼされ、そのわずか3ヶ月後に信長も本能寺で横死し、武田遺領争奪戦「天正壬午の乱」が勃発すると、座光寺氏の一族為清は徳川家康に服属した。為清の子為真(為時)は、松岡城主松岡右衛門佐貞利が徳川方の高遠城攻撃に動いていたことを徳川方に密告し、その功で上州大竹の知行を与えられて旗本となり、1602年に封千石で山吹に陣屋を構えた。

 一方、現在残る遺構の規模と構造から、上野南本城は国人クラスではなく戦国大名クラスの勢力が介在した城ではないかとの指摘がある。具体的には以下の4説が提唱されているらしい。
①1572~82年にかけての時期に、徳川氏・織田氏と対立した武田氏が関与した
②1582年の武田征伐の際に、織田氏の軍勢が築いた
③1582年の天正壬午の乱の中で、下伊那で衝突した徳川勢・北条勢のいずれかが築いた
④1583~85年に対立した徳川家康・豊臣秀吉のいずれかの配下が築いた
いずれが有力なのか、結論は出ていない。

 上野南本城は、麻績神社の背後にある比高80m程の丘陵上に築かれている。麻績神社から散策路が整備されており、広大な山城にも関わらず城の主要部だけでなく周辺の腰曲輪に到るまで、かなり広範囲に整備されている。現地でパンフレットが入手できるので、参考にするとよいだろう。城内は、主尾根に穿たれた2つの堀切で、南北に大きく3つの区画に分かれている。南が主城部で、土塁を築いた広い主郭を持ち、そこから南東と南西に伸びる尾根に曲輪群を築いている。2つの尾根の曲輪群は、いずれも途中に2本の堀切を穿ち、側方に長い竪堀となって落ちている。特に2つの尾根に挟まれた中央の谷戸に、いずれの竪堀も落ちてきていて、大手道の存在を伺わせる。南西の曲輪群では馬蹄形の曲輪と尾根上の細長い曲輪から構成されるが、南東の曲輪群では堀切前面の小郭から南・南東の斜面に腰曲輪群を何段も築いている。南東曲輪群の南下方には城道を兼ねたと思われる横堀も構築されている。一方、南西曲輪群の西面には横堀が穿たれているが、ここだけは薮が多くて形状がわかりにくい。この他、主郭の西には3段の腰曲輪群、東には古賀比神社のある馬蹄形の広い曲輪が置かれている。主郭の背後には堀切が穿たれているが、自然の鞍部を多少加工した程度で、両側に落ちる竪堀ははっきりしているものの、肝心の主郭背後の部分は余り鋭さがなくのっぺりした堀切である。
 この堀切の北にあるのが、3つの区画の内、真ん中に当たる北郭群で、西に向かって段々に下る形で、平場群が置かれている。北郭群の外周には低土塁が築かれ、郭群の頂部にはF字型の土塁が見られる。しかしこの頂部の遺構は作りがやや大味である。
 北郭群の北には明瞭な堀切が穿たれ、その先に3つの区画の北端に当たる遺構群が存在する。ここには物見台状の小さい堡塁が南北に2つ置かれ、いずれも背後に竪堀を落としている。北のものではこの竪堀は下方でL字に曲がって横堀に変化している。これらの堡塁の西側にも遺構らしい地形があるが、作りが大味で構造がわかりにくい。これらの北端の遺構群は、『信州の山城』(信濃史学会編)では二重馬出しとしているが、それほど形が明瞭ではない。以上が上野南本城の遺構で、城域は広く、しっかりした遺構が残っているが、部分的に作りが大味な城である。

 ここで上野南本城に関わった可能性がある戦国大名勢力について考察してみたい。織田・豊臣勢力の城では、塁線が直線的で複雑な枡形虎口があるのが特徴であるが、上野南本城ではそれらは見られない。また武田氏の城では、曲輪外周を巡る横堀・放射状竪堀・馬出・枡形虎口などの特徴があるが、上野南本城ではこれも見られない。北条・徳川の城の特徴も余り感じられず、結局どういう勢力が介在した城だったのか、結論は得られなかった。
広い主郭→DSCN5761.JPG
DSCN5781.JPG←主郭背後の堀切
北郭群の北の堀切→DSCN5836.JPG
DSCN5849.JPG←竪堀と堡塁

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/#16/35.535535/137.852218/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1


信濃の山城と館〈第6巻〉諏訪・下伊那編―縄張図・断面図・鳥瞰図で見る

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  • 作者: 宮坂 武男
  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 単行本


タグ:中世平山城
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