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福与城(長野県箕輪町) [古城めぐり(長野)]

DSCN7005.JPG←主郭南の空堀
 福与城は、史料では箕輪城と書かれ、上伊那の豪族藤沢氏の居城である。藤沢氏は、諏訪神(みわ)氏の庶流千野氏の一族で、千野光親の子親貞(清貞)が藤沢神次を称した。その子清親は伯父光弘と共に保元・平治の乱の際、大祝の代官として出陣し戦功を上げた。鎌倉幕府ができると清親は将軍に仕えて御家人となった。弓の名手として知られ、度々軍功を上げた。1221年の承久の乱の際には、幕府軍の総大将となった北条泰時が鎌倉を出立する前日に清親の館に泊まったと言われ、藤沢氏が北条氏の厚い信頼を得ていたことが知られる。清親は高齢のため承久の乱には出陣しなかったが、一族が挙って出陣し、その軍功により箕輪郷を拝領して入部したらしい。福与城の築城時期は明確ではないが、鎌倉時代とされる。南北朝期の1355年8月、南朝の宗良親王が北朝の信濃守護小笠原貞宗と戦った桔梗ヶ原合戦では、諏訪勢と共に藤沢氏も参戦したが、南朝勢は大敗して衰退した。その後、藤沢氏は小笠原氏に帰順したらしく、1440年の結城合戦では信濃守護小笠原政康に従って参陣している。戦国前期の天文年間(1532~55年)には藤沢頼親が城主であった。1542年に諏訪郡を制圧していた武田信玄は、1544年から上伊那郡への侵攻を開始した。形勢不利のため、信玄は一旦兵を引いたが、翌45年4月、再度上伊那に侵攻して高遠頼継が拠る高遠を攻撃し、これを落とした。次いで武田勢は藤沢頼親が拠る福与城を攻撃した。頼親は、上伊那衆・下伊那衆・府中の信濃守護小笠原長時(長時は頼親の妻の兄)に支援を求め、伊那諸豪と共に籠城して頑強に抵抗した。武田勢はこれに苦戦し、部将の鎌田長門守が討死した。50日間の籠城戦の末、6月に信玄は頼親との和睦を図り、頼親は舎弟権次郎を人質に出して和議を結んだ。しかし和睦と言っても実質的に藤沢氏の降伏であり、和睦の後、城は武田勢に放火破壊された。その後頼親は二度にわたって武田氏から離反し、そのたびに武田勢の攻撃を受け、最終的に1548年9月に信玄に降伏して福与城を明け渡した。1549年には、武田氏が福与城を修築(鍬立て)したことが知られる。一方、頼親は小笠原長時を頼って流浪の身となり、後に信玄によって信濃を逐われた長時と共に京都に上り、三好長慶のもとに身を寄せた。1582年3月、織田信長が武田氏を滅ぼすと、頼親は34年ぶりに伊那に戻り本領に復帰し、田中城を築いて居城とした。藤沢氏の復帰は信長の支援によると推測されている。そのわずか3ヶ月後に信長が本能寺で横死すると、武田遺領の織田勢力は一挙に瓦解し、北条・徳川・上杉3氏による武田遺領争奪戦「天正壬午の乱」が生起した。伊那衆は当初、三河から伊那に侵攻した徳川勢に従属したが、その後北条氏の大軍が信濃に侵攻してくると、北条方に転じるものが相次ぎ、藤沢氏も北条方となった。しかしその後の情勢変化で北条方が苦境に陥ると、高遠城を奪取していた保科正直は徳川方となり、頼親にも徳川方への帰属を促したが、頼親はこれを拒否した。その結果、保科氏は軍勢を率いて田中城を攻撃し、頼親は懸命に防戦したが抗しきれず、城に火を放って自刃、藤沢氏は滅亡した。

 福与城は、天竜川東岸の比高50m程の河岸段丘先端部に築かれている。現在城跡の主要部は県史跡に指定されて整備されており、外郭は畑となっている。北に向かって突き出た断崖上の北端に三角形の北城(北郭)を置き、その南に空堀を挟んで東西に主郭・二ノ郭を配置し、更に空堀を挟んで南城(南郭)・権治曲輪などといった外郭を配している。主郭は周りの曲輪よりも高い位置にあり、北城・二ノ郭を見下ろす位置にある。二ノ郭は2段の平場に分かれ、南の一段高い平場は姫屋敷と呼ばれている。外郭は東から西に向かって段々に平場が築かれ、東の一番高い平場に権治曲輪・宗仙屋敷の名が残り、その西側に乳母屋敷・南城の名が残っている。これら外郭の南には天然の沢が入り込んでいる。この他、各曲輪には腰曲輪が1~2段付随している。福与城は、空堀はいずれも直線状で横矢掛りがなく、虎口にも目新しい構造は見られない。上伊那でも最大の勢力であった豪族の本拠であるが、全体に戦国前期頃までの古い設計の城と感じられた。
主郭から見た北城(北郭)→DSCN7024.JPG

 お城評価(満点=五つ星):☆☆☆
 場所:https://maps.gsi.go.jp/#16/35.895977/138.000362/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1


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タグ:中世崖端城
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